2024年9月1日日曜日

「新しい成田空港構想」を読む  空港生き残りで周辺住民が犠牲に

 成田空港会社田村明比古社長は7月3日、国土交通省を訪れ、再編内容をとりまとめた「新しい成田空港構想」報告書を提出した。

 構想の目玉は、3か所に分散した現行の旅客ターミナルを1か所に集約するワンターミナル化と、分散する貨物施設を1か所にまとめた新貨物地区の整備で、30年代前半の一部供用開始を目指す。
 報告書のイラストによると新ワンターミナルは横堀、木の根に造られる。新貨物地区は新ターミナルの北東、一鍬田(ひとくわだ・多古町)、中谷津(芝山町)に配置される。
 国際線旅客数は増加傾向ではあるものの、アジア圏の他空港の旅客数が大きく伸びており、旅客数ランキングでは2000年の8位から2019年の18位と徐々にランクを下げている。貨物は金額ベースで日本最大の貿易港であり、国内航空貨物の6割を扱っている。しかし、貨物においてもアジアや中東の空港に遅れをとり、やはり徐々に順位を落としている。
 成田空港が生き残るにはどうするのか。生産拠点の海外移転や人口減少で、日本発着の貨物(輸出・輸入)に頼っていては取扱量の増大は見込めない。旅客や貨物を増やすためには、ハブ空港となり、乗継客や継越貨物を取込まなければならない。そのために貨物地区は物流事業者が利用しやすい施設をつくるというのだ。さらに、隣接する多古町飯笹(鷹ノ巣)地区(70ha)に計画されている豪州グッドマングループの国際物流拠点との一体的運用も考え、建設中の圏央道に新たなインターチェンジを造ることも求めている。
 課題は、アクセス問題や人手不足、隣接地の農地転用規制など山積みだ。最大の課題は8000億円と試算された事業費。空港会社では調達できないため、新滑走路の整備と並ぶ国家プロジェクトとして国に頼りたいのだ。 報告書には「地域共生まちづくり」の項目もある。歴史的経緯から「空港周辺地域の開発は部分的なものにとどまってきた」「ビジネス街区」「人材確保のための教育施設や住宅街の整備の開発が大きく進展しない状況」と総括し、この地域が農村であり農業で生きてきたことを否定している。空港を中心とした空港のための人材・まちづくりを、行政と一体で進めるとしか読めない。
 熊谷千葉県知事は空港会社社長、自民党議員らと、7月29日首相官邸を訪ね岸田首相に要望書を提出した。要望書は、成田空港を核とした物流・産業機能の充実を求める内容で、国家戦略特区の活用も求めた。首相は「国家プロジェクトとして国際航空物流拠点の機能強化が図られるようにしっかりと対応したい」と述べ、8月にも国家戦略特区諮問会議を開いて議論する考えを示した。農地よりも物流が大事だと言っている(T)